マーケティングにおけるデジタルの重要性は日々拡大しています。企業にとっては、デジタル時代をどう乗りこなすかが、企業の未来を決めるといっても過言ではありません。
そこで今回は、アドビ システムズ株式会社のアドビ カスタマー ソリューションズ統括本部でプロダクト エバンジェリスト 兼 シニアコンサルタントを務めている安西敬介さんに、最新のマーケティングツールの動向や、ツールを使って成果を上げるコツ、マーケターに求められるマインドセットなどを伺ってきました。
タッチポイントの多様化と、それに伴い一貫したコミュニケーションが重要に
― 最近のマーケティングツールにはどのような傾向があるのでしょうか?
近年は、マーケティングツールの多様化・コミュニケーションの統合化が同時並行で進んでいます。
背景として、ウェブサイト、スマートフォン、アプリ、スマートスピーカー、デジタルサイネージなど、デジタル領域での企業とユーザーのタッチポイントが増えてきている中で、比例してそれぞれのタッチポイントに特化したツールが続々と開発されてきました。これがツールの多様化です。
一方で、お客様視点に立ったときに、ウェブサイトに表示されたメッセージとメールで受け取ったメッセージが異なることがあるなど、すべてのタッチポイントで一貫したコミュニケーションができていないケースも多い。
そこで最近は、さまざまなツールを活用しつつも、どのタッチポイントにおいても一貫したコミュニケーションを構築するトレンドが出てきています。
顧客へのタッチポイントが増加した結果、それぞれに一貫性を持たせてコントロールするのが難しくなっているそう。
アドビさんが提供しているツールも同様で、各タッチポイントにおけるツールは多様化してきている一方で、ソリューション間の連携もしっかりとできるようにする取り組みが数年前から行われているとのこと。
売上アップのカギは、正しいビジネスゴールの設定とパーソナライズ
― ツールを活用して集客アップや売上アップを図るには、どうしたらいいのでしょうか?
まず重要なのは、ゴールを設定すること。ゴールとは、広告のCPAなどの小さなゴールではなく、そのもう一段上にあるビジネスゴールのことです。
ネット証券会社を例にとれば、ゴールは会員の獲得数などがあります。
しかし、会員がただ増えるだけでは売上につながりません。会員になった人たちがその後きちんと取引をすることで手数料が発生し、そこで初めて売上をあげることができるのです。
その点では、弊社のツールにはさまざまな機能があり、柔軟性に長けていると言えます。
一方で、ツールを効果的に活用して売上アップにつなげるには、ビジネスゴールを明確に定義した上でそれに合わせた使い方をしていただくことが重要です。
たしかに、マーケターは日々の達成すべきKPIにとらわれがち。
目先のゴールではなく、自分たちのビジネスを成功させる上で本当に必要な機能は何かを考えて使うことが重要ですね。
もうひとつ重要なのは、ひとりのお客様に向けて、正しいメッセージを正しいチャネルで正しいタイミングに提供すること、いわゆるパーソナライズです。
パーソナライズは、スマートフォンやアプリはもちろん、スマートスピーカーなど家族全員が使用するデバイスも例外ではありません。そして、家族の誰が使っても、その人に合ったコミュニケーションができることが必要です。
パーソナライズのためのキーポイントは2つ。ひとつは、お客様のコンテクストを知ることです。リアル店舗であれば、お客様と対面した段階で性別や年齢層が分かり、好みもすぐに聞き出すことができます。これと同様のことをオンラインでもしていかなければならないのです。
たとえばリターゲティング広告、会員の属性情報や、オフラインのチャネルにおける顧客情報など、さまざまな情報がありますが、それらを適切に把握することで、お客様のコンテクストが理解できます。
そこまでした上でやっと、この人にはこういったコミュニケーションを、と使い分けていくことができるんですね。チャネルが多様化している分、近年のパーソナライズはより複雑になっていると言えるでしょう。ツールを適切に活用する必要があります。
「コンテンツベロシティ」をいかに素早く回せるか
―もうひとつのキーポイントとはなんでしょう。
もうひとつは、コンテンツです。パーソナライズするということは、コンテンツがその分だけ細分化されていくということ。「もう何度も見たよ」ということにならないように、コンテンツは定期的にアップデートする必要があります。
コンテンツを制作し、世に出していくサイクルを早く回すことを、弊社では「コンテンツベロシティ」と呼んでいます。
コンテンツベロシティは、企業がパーソナライズを進めていく中で絶対に直面する課題です。そのため、安易にパーソナライズを進めたものの、実は裏側でコンテンツを用意できる仕組みが整っていない、ということがないようにしなければなりません。
コンテンツを制作し続けるには、仕組みが必要。
しかし、社内にリソースが十分にない企業もあるかもしれません。その場合、助けになるツールはあるのでしょうか。
直近で増えてきているのは、AIの活用です。
その人に今どのようなコンテンツを届けるべきか、をAIが学習した上で、手間をかけずにパーソナライズしていくということがどんどん実現してきています。
たとえば広告などのクリエイティブに関しても、何百パターンも用意してテストしなくても、クリエイティブのパターンだけ用意しておいて、あとは組み合せでテストをおこなうことも、弊社のツールで可能です。
そもそも、リソースが足りないということは、本来企業としてやりたいと考えていることがあるにも関わらず、それに取り組めていないということなので、長期的に絶対にリソースは増やしていくべきです。
ツールを使って無駄な作業を省くことで、コンテンツベロシティを早く回す。そうして成果を出すことで、その分予算や人員を増やして、という話が可能になってきます。
リソースの有無にかかわらず、ツールという手段をうまく使って、まずは社内の説得材料を作れるマーケターが必要とされている気がしますね。
エクスペリエンスシンカーではなく、エクスペリエンスメーカーに
―最後に、マーケターのみなさまにアドバイスをお願いします。
お客様にどんな顧客体験やサービスを提供したいかという信念を持ってください。
アイディアを妄想で終わらせずに形にしていくためには、社内を巻き込む力も欠かせません。そのために何ができるかを常にブレイクダウンして考え、実行に移していくことが大事です。
ちょうど2か月前、弊社がアメリカでおこなったイベントで、「エクスペリエンスメーカー」という言葉が出てきたのですが、まさにこれです。ちなみに、対義語は「エクスペリエンスシンカー」でこれは妄想している人、と言っても良いかもしれません。
顧客体験をこう改善できたらいいな、と考えているだけの人はそれなりにいます。そこを実行に移すか移さないかが分かれ道です。
もし自社だけで実行が難しければ、その信念を弊社のコンサルティングチームに伝えてください。製品についてだけではなく、信念の実現に向けたサポートを全面的にさせていただきます。
エクスペリエンスシンカーではなく、エクスペリエンスメーカーであれ。マーケターに限らず、すべての社会人に言えることかもしれません。
安西さんも携わるアドビのコンサルティングチームは、製品ベンダーとしての枠を越えてサービスを拡張し、さまざまなサポートを行っています。ツールのことだけでなく、デジタルマーケティングやコンテンツ作りで悩むことがあれば、一度相談してみるのもいいかもしれませんね。
安西さん、お忙しいところありがとうございました。