空きスペースを簡単にシェアリングできるサービスが増えています。初期投資なしで車1台分からコインパーキング運営ができる「Smart Parking」もそのひとつ。
昨今はMaaSなどで“移動”にまつわるサービスが注目されていますが、 視点を“駐車場”に移すと、どのような課題や未来が見えてくるのでしょうか。Smart Parkingを提供する株式会社シード 代表取締役 吉川幸孝さんに、お話をうかがいました。
コインパーキングの少ない住宅地にも、気軽に駐車できる場所ができる
―御社の提供サービスである「Smart Parking」について、サービス内容や駐車場ビジネスに感じられていた課題をお聞かせください。
Smart Parkingは、専用のカラーコーンを置くだけで、車1台分の空きスペースからコインパーキング運営ができるというサービスです。ユーザーさんにとっては、専用のアプリの空き情報から駐車スペースを探し、出入庫や決済もアプリ上でできるようになっています。
簡単に言えば、空きスペースを駐車場として貸し出したい人と、駐車場所を探している人のマッチングサービス。スペースのシェアリングを推進するサービスとも言えます。
サービスを開発した背景には、次のような課題があったと言います。
オーナーさんの視点でいえば、コインパーキングのビジネスを始めるには多額の設備投資が必要になるため、空きスペースがあっても資産家でなければハードルが高いビジネスでした。そこで、初期投資をせずに、1台分のスペースからコインパーキング運営ができるSmart Parkingを開発することで、駐車場ビジネスのハードルを下げたいと考えました。
車1台分のスペースから初期投資なしで貸し出せるとあって、個人のオーナーさんも多いそう。今は個人オーナーが全体の2割、法人が8割ですが、シェアリングの概念がもっと広がっていけば、需要は広がっていきそうです。
一方で、ユーザー側の視点では、家に遊びに来た親戚や友人の車を近くに停めようと思っても、住宅地にはコインパーキングが少ないという課題があります。それに対して、Smart Parkingで家の前のスペースを駐車場にする人が増えれば、そのようなニーズにも応えることができます。
利用する側にとっても、Smart Parkingで立地に関係なく駐車場ができることによって、どこでも車が停めやすくなるという利点があるのですね。
駐車場のプラットフォームをつくりたい
―昨年12月には、新サービス「Smart Parking HUB」をリリースされました。これはどういったサービスなのでしょうか。
これは、コインパーキングでキャッシュレス決済ができるサービスです。もともとあったコインパーキングにSmart Parking HUB(以下、HUB)のサービスを連携させることによってスマホで決済ができるようになり、わざわざ精算機まで行って精算をしなくてもスマートに出庫できるようになります。
スマホ決済ができるようになれば、雨の日に精算機まで行って精算をするわずらわしさがなくなります。
なかでも、精算機の一番の課題は、五千円札や一万円札の高額紙幣が使えない機械が多いこと。スマホでキャッシュレス決済ができれば、わざわざ両替をしにコンビニに走る必要もありません。
一方、事業者側には、大きなコストをかけずにキャッシュレスという時流に乗れると好評だそう。
HUBは、精算機とアプリのサーバーを連携させて決済を行うため、精算機に特別な端末などを付けることなくキャッシュレス化が可能です。そのため、Smart Parkingと同じく初期投資を必要としません。
また、大手のコインパーキング事業者さんでは、精算機の9割以上がキャッシュレスに対応していますが、中小のコインパーキング事業者さんはほとんどキャッシュレスに対応できておらず、この差を埋めたいというニーズもありました。
サービス開始後2カ月でHUBの設置場所は1500箇所。中小のコインパーキング事業者のニーズを的確に捉えたことにより、爆発的な広がりを見せています。
もうひとつ、HUBには集客というメリットも。
HUBを導入すると、Smart Parkingのアプリに満空情報が表示されるようになります。従来のコインパーキングは、大通りに面しているかどうか、つまり人目につきやすいかどうかが集客に大きな影響を与えますが、アプリ上であれば、マップ上にピンが表示されるため、認知を広げることができるんです。
現在、Smart Parkingのアプリに掲載されている駐車場は約3500箇所。今後は、掲載箇所をさらに広げ、コインパーキングのプラットフォーマーのような立ち位置になりたいと考えているとのこと。
ほかにも、新規オープンの駐車場の認知を上げるためにクーポンをつくったり、飲食店と提携をして、そこで飲食をした人には駐車代金をサービスしたりするなど、駐車場に関するさまざまなサービスを展開していきたいと考えています。
シェアリングの心理的ハードルは徐々に下がっている
―昨今さまざまなシェアリングサービスがリリースされていますが、今後、日本のシェアリングはどうなっていくとお考えになりますか。
実際にサービスを展開していて思うのは、シェアリングという言葉だけが流行していて、多くの人にはハードルの高いものだと思われているということです。
Smart Parkingであれば、余っている土地をうまく活用したいとは思っても、知らない人が敷地内に入ってくることに抵抗があって利用に踏み切れないといったことがあるようです。
部屋を貸し出すAirbnbなども同様で、空き部屋があっても知らない人が家に入ってくることに抵抗があるという人は多いのではないでしょうか。
シェアリングは絶対に広がった方がいい。なぜなら、その方が生活が豊かになるからです。
たとえば物を買うときに、メルカリのようなサービスでいらなくなったら売れるという前提があれば、少し価格の高いものでも購入しやすくなります。20万円のパソコンが19万円で売れるとしたら、実質1万円の負担でいいという考え方ができるようになるわけですから。
そのため、吉川さんはシェアリングサービスを利用する心理的なハードルをもっと下げたいと考えているとのことでした。
シェアリングを移動というテーマに絞れば、カーシェアリングで車を所有する人が減るとも言われています。それについてもご意見をうかがってみました。
車を所有する人が減るとは言われていますが、実際のデータでは、法人と個人の所有台数の総計は増えています。また、とくに車を買わなくなったと言われる20代は、もとから親の車を使う人が多く、そもそも購入台数が少ない。それが減ったとしても、すぐに影響はないと考えています。
では、駐車場ビジネスという視点では、どうなのでしょうか。
車を購入する人が減ってカーシェアやレンタカーが増えたとしても、どのみち駐車場は必要になります。それに、電車やバスが少ない地方では、まだまだ車が必要。私たちも、今後そういったニーズを捉えていきたいと考えています。
共同創業するなら、方向性のすり合わせが欠かせない
―最後に、起業されてから最も苦労されたことをお聞かせください。
僕は大学3年生のときに友人2人と起業したのですが、それぞれ目指しているところが違ったため、とても苦労しました。
というのも、僕自身は三期連続黒字化を達成して銀行からお金を借り、より大きなビジネスをすることを目標としていましたが、友人2人は起業をすればお金が儲かるかなという程度。誰かと共同で起業をするときは、同じ方向性をもってできる人でなければならないと、身をもって痛感しましたね。
8人の従業員を抱える今でも、「人に対してはずっと苦労する」と、吉川さん。苦い経験を糧に、しっかりと体系立った組織づくりをされている様子が印象的でした。
吉川さん、お忙しいところありがとうございました。