政府主導でキャッシュレス化が進み、クレジットカードや、PayPayなどのモバイル決済、Suicaなどの電子マネーを使って支払いをする機会が増えてきました。同時に、WAONやnanacoなど、自社チェーンの経済圏だけで使える電子マネーを開発する企業も増えてきています。
一方で、手数料や導入コストの高さから、現金しか取り扱いのないお店も日本には多くあります。そこで、そういったお店のキャッシュレス化を促進するサービスとして注目されているのが、オリジナル電子マネープラットフォーム「ポケペイ」です。
ポケペイを提供するのは、約2年前にも当メディアで取材したことのある株式会社ポケットチェンジ。今回は、同社のビジネス戦略面を主導するDirector of Business 松居健太さんに、ポケペイのサービスや次世代の貨幣流通について詳しくお話をうかがいました。
高まるポケットチェンジの注目度
―前回の取材では、海外旅行などで余った外貨コインを、日本の電子マネーにチャージできる両替機「ポケットチェンジ」について、お話をうかがいました。その後、ポケットチェンジの運用状況はいかがですか。
2017年2月から設置を開始し、現在では空港や街なかに約70台を設置しています。空港は、羽田や成田をはじめ、日本を往来する海外旅行者の90%以上が利用する国際空港をカバーしています。そのほか、旅行会社のHISさんやゲームセンターのタイトーステーションさん、イトーヨーカドーさんなどでも設置が進んでいます。
HISでは、空港では時間がなくて両替できなかった人が利用したり、タイトーステーションでは、日本のアーケードゲームを旅行の一つの目的とした訪日外国人が、自国の通貨をゲームに使える電子マネーに両替したりと、設置先企業からは評判がよく、先方からの増設の要望によって設置台数が増加しているそう。
街なかにも設置されるようになったことで徐々に認知度が上がり、利用も増加してきた手応えがあります。最近では、全国地上波のテレビ番組で取り上げていただく機会も増えました。
今後、設置台数はまだまだ増える予定で、年内には100台の設置を見込んでいるとのことです。
キャッシュレス化を加速する「ポケペイ」とは
―昨年は、新サービスとなる「ポケペイ」をリリースされました。サービス内容を詳しくお聞かせください。
簡単に言うと、誰でも簡単にオリジナルの電子マネーがつくれるプラットフォームです。つくった電子マネーは、自社の経済圏の通貨としてご利用いただけます。
企業チェーンの電子マネーといえばWAONやnanacoなどが有名ですが、オリジナルの電子マネーを立ち上げようとすると、これまでは開発費用に何千万、何億という単位の費用がかかっていました。そこでポケペイは、初期費用や開発費用を無料にし、企業チェーンや飲食店、個人まで、誰もが自由に電子マネーをつくれるサービスとして立ち上がりました。
ポケペイの発案は、ポケットチェンジの使われ方の傾向や、ポケットチェンジを提供するなかで上がってきた設置先企業の要望がきっかけになったと言います。
ポケットチェンジは外貨コインを電子マネーに両替することを主な用途としていますが、日本円の硬貨を電子マネーとしてチャージする人も一定数いたことから、硬貨を持つこと自体が煩わしくなってきているのではと考えました。一方で設置先企業さんからは、ポケットチェンジ端末でチャージできる電子マネーを、Suicaなどの共通マネーだけでなく、自社の電子マネーにも変換できるようにしたいとの要望もありました。国の後押しもあり、今後ますますキャッシュレス化が加速すれば、ポケットチェンジのような端末の設置需要も高まります。それに伴い、硬貨の入金先を自前の電子マネーにしたいという需要も増えると考えたのです。
しかし、開発にコストや時間がかけられない企業や個人も多くあります。そこで、ポケットチェンジ端末とあわせて、オリジナルの電子マネーを低いコストで簡単に立ち上げられるプラットフォームを提供することで、今後拡大するであろうニーズに応えようと考えました。
業界を問わず広がる、ポケペイの活用事例
―現時点で、ポケペイはどのように利用されていますか。
小売チェーンや金融機関、小さな商店、ネイリストといった個人事業主などに幅広くご利用いただいているほか、宮城県の塩竈や新潟県の佐渡ヶ島といった観光地において、地域通貨としてもご利用いただいています。
ポケペイで電子マネーをつくるメリットには、顧客を囲い込んで自社の経済圏を活性化させることはもちろん、顧客へのプロモーションができるということも挙げられます。
特に観光地では、訪日外国人も含めた観光客に対してリピート需要を喚起するためにプロモーションを行おうとしても、クレジットカードやPayPayなど第三者が提供する決済手段ではそもそも顧客情報が取得できず、集客に活用できないといった課題があったそう。その点ポケペイは、スマートフォンアプリを使って決済を行うことから、アプリを使ってプロモーションのための情報提供もできるようになっています。
たとえば塩竈では、地元の方も観光客の方も使える形で、地域通貨「ガマコイン」を約1年前から運用しています。塩竈には訪日外国人もたくさんいらっしゃるので、外貨両替機であるポケットチェンジを使い、外貨からガマコインに直接両替するというところにも広がっており、そこも含めてご評価いただいています。
また、ユニークな事例として、老人サロンの施設内通貨としても利用されています。
もともとは紙で金券をつくって運用されていたのですが、金券をつくったり現金と交換したりすることに手間がかかるということで、何らかの形で管理を簡単にしたいというニーズがありました。そこで、ポケペイで施設内通貨をつくることにより、デジタルの金券としてご利用いただいているんです。
今は60代以上の方も、半分以上がスマートフォンを持っています。ポケペイはシンプルな操作で利用できるため、デジタルにあまり慣れていないお年寄りの方でも使いやすくなっているのだそうです。
電子マネー流通の中心となるプラットフォームへ
―ポケペイの提供を通して、貨幣流通の未来をどのように思い描いておられるのでしょうか。
中期的な目標として、価値と価値を交換するプラットフォームをつくりたいと考えています。
ポケペイでつくった各電子マネーは、ほかの電子マネーとの相互交換が可能になります。
ユーザーの視点でいえば、好きなお店の電子マネーを持つことでお店との結びつきが強くなるという喜びがある一方で、その電子マネーがそこでしか使えなければ、残高が余ってしまったときに捨ててしまうことになりかねません。ポケペイでは、その残高をほかの電子マネーにも交換できるようにしたことで、ユーザーにとって電子マネーがより便利で取り入れやすいものになることを目指しています。
我々の提供するポケペイは電子マネーを単なる決済手段としてではなく、お店とユーザーの関係性を深めるためのツールとしてご提供しています。そして将来的には、ユーザーがそのときにその場所で使いたい通貨を自由に選ぶことができ、余った通貨も無駄にせず次の価値へつなげることができるというように、電子マネーで価値交換のループができる世界をつくれれば、おもしろいと思っているんです。
今後、キャッシュレス化のさまざまな課題を解消したポケペイのサービスがさらに広がれば、電子マネーがより身近なものとなりそうです。私たちが思っているより、現金を持ち歩かなくなる日も近いのかもしれませんね。
松居さん、お忙しいなかありがとうございました。