マーケティングの一手法として、SNSで多くのフォロワーを持つインフルエンサーを使ったマーケティングが注目されています。
インフルエンサーと言えば、YouTuberやモデルなどが真っ先に思い浮かぶかと思いますが、最近、大企業を中心に効果が高いと支持を集めているのは、TwitterなどのSNSで人気のあるマンガを使ったプロモーションです。
そのマンガを描くクリエイターを発掘し、クリエイターと企業とをつなぐエージェンシーのような役割を担っているのが株式会社wwwaapp(ワープ)。
マンガというジャンルでインフルエンサーマーケティングを主導する同社の代表取締役社長 兼 CEO 中川元太氏に、マンガ家によるインフルエンサーマーケティングのやり方や可能性についてうかがいました。
フォロワー数が多いのに仕事がないマンガ家と、PRをバズらせたい企業をマッチング
―そもそもなぜSNSのマンガに着目されたのでしょうか。
私は以前、広告代理店で営業をしており、その後マンガ事業のグループ会社の立ち上げメンバーとなり、そこでマンガ編集を経験しました。
そのときに考えていたのは、今後少子化によって日本の産業が縮小していく中で、外貨を稼ぐビジネスをしなければ成功はないということ。日本人で生まれた以上、日本が世界的に優位性を持つジャンルで戦うべきと考え、日本が世界一の市場であり、且つ世界で市場が伸びつつあるポテンシャルの高い産業であることからマンガを選びました。
その際にできたマンガ家とのつながりが、wwwaappの事業を発想するきっかけに。
SNSで20万や30万という数のフォロワーがいるのに、マンガ家として生きていきたくても仕事として成り立たせることができていないマンガ家が目の前にたくさんいました。
一方、インフルエンサー業界ではフォロワーひとりにつき数円という世界で、フォロワーがある程度いれば数十万円、数百万円となるのが通例です。
マンガ家は、原稿を描いても値付けや交渉が得意でない人が多く、新人相場程度の原稿料の数千円から1万円台で仕事を受けてしまう人が多くいました。
また、企業にもインフルエンサーマーケティングにマンガを使うという発想もなかった。
私は、本当に面白いものを作っているのに、しかるべき報酬を受けられずに仕事に困っている彼らの手助けをしたいと感じたこと、そして、広告にもマンガの編集にも知見があったので、その両者を理解してつなげられるということにビジネスチャンスがあると感じたんです。
試しにマンガ家によるインフルエンサーマーケティングをある大手広告代理店に提案したところ、すぐに大手メーカー2社の採用が決まったそう。
結果、Twitterでのリツイート数は誰もが知る女優さんの15倍になり、マンガ家への報酬も数十万円が支払われました。マンガ家は驚いて、入金間違えてませんか?と言ったほどです(笑)
企業にもマンガ家にも喜ばれ、ビジネスとして利益も上がる。三方よしの大きな手ごたえが得られたことが起業への自信になりました。
たとえPRでも、コンテンツがおもしろければ拡散される
―マンガによるインフルエンサーマーケティングは、動画や芸能人などの他ジャンルのインフルエンサーマーケティングに比べてどのような優位性があるのでしょうか。
エンゲージメント率(いいねやリツイートなど、閲覧者が何らかのアクションを起こす率)が全然違います。
一般的なインフルエンサーによる投稿のエンゲージメント率は2~3%が平均ですが、マンガ家による投稿は弊社実績で16%を超えています。
PR案件でも、うちの作家だと数百から数千RT(リツイート)は当たり前に獲得しています。
マンガ家のエンゲージメント率が高い理由は、コンテンツがおもしろいから。それは、取り扱う内容がPRであっても変わらないといいます。
たとえば、芸能人やモデルをフォローしている人はその人自身に興味がある場合が多いので、憧れの女性モデルがどのシャンプーを使っているかには反響があっても、どのお菓子をおいしいと思ったかは、興味が薄れる傾向にあります。
つまり、使えば憧れに近づけるシャンプーのPRは効果が高くても、憧れる要素に直接関係のないお菓子のPRには効果が期待できにくいということです。
コメント欄がPRと関係ない「今日もかわいいね」等で溢れてしまうことが課題という話を広告主からよく耳にします。
その点、マンガ家はその人自身よりも、その人が発信するコンテンツを見たくてフォローしている人が多いため、コンテンツの内容がおもしろいと思われさえすれば、エンゲージメントにつながるんです。
おもしろいと思ったものをそのまま表現できるのもマンガの強み。たしかに、動画や写真では物理的な制限を受けることもありますが、マンガであればたとえ突拍子のない空想でも難なく表現できます。表現の幅が広いのですね。
マンガによるインフルエンサーマーケティング成功の秘訣とは
―マンガ家を起用したいと考える企業に、インフルエンサーマーケティングを成功させるためのアドバイスがあれば教えてください。
企業の担当者の方にはいつも、マンガ家の自由度をできるだけ広げてほしいと話しています。
彼らはフォロワー数を伸ばしてきた中で、何を描けば誰がどんな反応をするかを分かっている。企業がストーリーに要望を出したり、納品されたものに修正を入れたりするほど、どんどんコンテンツがおもしろくなくなり、結果ユーザーの反応が芳しくなかったケースは数多くあります。
クライアントにはイメージしたマンガを作ってもらう「制作受託」ではなく、魅力的なコンテンツを創る「クリエイターの才能」に発注をしていると思ってもらいたいと伝えています。
とはいえ、仕事である以上、クライアントの目的に沿う必要はあるため、我々はクライアントの要望を整理し、クリエイターがやりやすい「舞台」を整えているという感覚です。
そのため企業には、盛り込んでほしい必須要素やNG要素など、制作前の与件の整理を徹底しているとのこと。
また、原稿の前にラフと呼ばれる下書きを事前に提出することで、そこで要素を満たしているかチェックができるので、内容による炎上がこれまで一度もないことも大手企業からの発注が多い要因だそう。
SNSにおいてのフォロワー数は、一度や二度バズったから伸びるわけではありません。この先も同じようにおもしろいコンテンツが見られると思うからフォローするんです。
そのおもしろさの再現性が高いコンテンツにPRを乗せられるというのが、うちのインフルエンサーマーケティングの魅力です。
マンガは表現の幅が広いため、あらゆる業種のクライアント実績があるそうだが、特に多いジャンルは映画やゲームなどのエンタメ全般のほか、食品や日用品など。
とあるインスタント食品をPRした際は、マンガを見て実際につくってみたというコメントが写真付きで投稿されたといいます。
また、金融商品など説明が難しいものも、マンガであれば分かりやすく説明できるため相性がいいとのこと。
最近では人の心を掴めるクリエイティブがつくれるとして、商品パッケージや靴のデザインなど、マンガという枠にこだわらないさまざまな依頼も増えてきました。
将来は、世界規模でクリエイターを売り出したい
―今後、ビジネスをどう展開していきたいと考えておられますか。
実はSNSでマンガを投稿している彼らは一概に皆マンガ家というわけではなく、いろいろな才能を持っているクリエイターです。黒板アートを納品することもあれば、スタンプや習字を納品することもあります。
今後はそういったクリエイターのエージェントとして、クリエイターたちが本当にやりたいと思っていることを世界規模でプロデュースしていきたいですね。
今はその第一弾として、キャラクタービジネスを手掛けており、自社初のオリジナルアニメである「カエル王子といもむしヘンリー」を中国や韓国で展開を始めており、複数の大手企業等と順次キャラクター開発と世界展開ルートの開拓を進めているとのことです。
世界規模で展開したいと考えている理由には、浮世絵が海外で高く評価されたように、国や文化が違えば違うほど作品が評価される確率が上がるということがあります。
クリエイターにできるだけ多くのチャンスをつくりたいと考えているからこその発想です。
wwwaapのインフルエンサーマーケティングの実績は、2017年4月から約2年で累計300件にも及びます。現在は毎日必ず数件の問い合わせがあり、効果の高さからリピーター企業も多いといいます。
着実に実績を積み上げている、マンガによるインフルエンサーマーケティング。インフルエンサーを使ったPRを考えているならば、一度は試してみてもいいのではないでしょうか。
中川社長、お忙しい中ありがとうございました。