かつては「シリコンバレー発のITベンチャー」というイメージがあったスタートアップ。昨今では、上場を果たしたメルカリやSansanなど、日本でも数多くのスタートアップが成功を収めていますよね。その要因のひとつとして、国内におけるスタートアップの資金調達環境が整ってきたことが挙げられます。
今回は、スタートアップが資金調達を行う各投資ラウンドの特徴や、国内の資金調達環境の現状について解説していきましょう。
各投資ラウンドとスタートアップの成長フェーズ~シードからシリーズA、B、C、エグジットまで
「投資ラウンド」は、もともと、投資サイドが投資先企業のファイナンスステージを把握しやすいよう、アメリカのシリコンバレーを中心に使われるようになった考え方です。スタートアップが資金調達を行うごとに、シードラウンド、シリーズA、B、C……と投資ラウンドが進み、最終的には投資資金を回収する「エグジット」を目指します。ちなみに、スタートアップの事業段階を表す「成長フェーズ」は、投資ラウンドとは視点が異なる点に注意が必要です。
以下で、投資ラウンドごとの特徴を、各成長フェーズとの関係も踏まえながら見てみましょう。
起業前にビジネスモデルのアイデアを出したり、商品のプロトタイプを作ったりして、事業準備を進めている段階での資金調達です。成長フェーズは「シード」にあり、調査・研究費や会社設立費用が必要になります。まだアイデアしかない時点で資金調達が行われる場合は「エンジェルラウンド」と呼ばれることもあります。
調達手段としては、自己資金のほか、「エンジェル投資家」と呼ばれる個人投資家や、シード期を対象とするベンチャーキャピタル(VC)からの出資が主です。調達規模は数百万円と、それほど大きくはありません。
事業を開始して間もない時期の投資ラウンドです。事業開始直後は「Pre-SeriesA期」と呼ばれることもあります。運転資金だけでなく、設備資金も必要になる時期です。
Pre-SeriesA期は、成長フェーズでいう「アーリー」の段階に当たります。まだプロダクトはできあがったばかりで、実績もほとんどなく、経営的には赤字の状況です。投資サイドにとっては、投資リスクが高いフェーズだといえます。
調達手段は引き続き、VCやエンジェル投資家からの出資が中心。また、国や自治体の補助金・助成金制度も活用できるようになるのも、この段階の特徴です。
顧客が少しずつ増えはじめ、ビジネスの方向性が見えてきたら、VCからの出資をより受けやすくなります。調達規模は数千万円程度が一般的です。
プロダクトが軌道に乗り始め、安定的に事業成長している成長フェーズ「ミドル」の段階で行われる資金調達です。マーケティングを強化したり、新規事業を開始したりと、ビジネスの拡大のための資金が必要になります。
シリーズBでは、VCからの出資が中心です。調達規模が数億円と大きくなるため、複数のVCから資金調達する場合もあります。出資以外では、日本政策金融公庫や各自治体の制度金融も活用していきます。
成長フェーズ「ミドル」から「レイター」にかけて行われる資金調達の段階です。
レイターは、生産体制が整ってプロダクトの質も安定し、事業が成長して黒字化しているフェーズです。IPOやM&A(=エグジット)に向け、十分な利益を確保するため、全国・海外展開や大企業との協業など、新たな試みが検討されます。そのため、さらに多額の資金が必要になる時期です。
VCからの出資のほか、銀行からの融資なども活用します。調達額は数十億単位です。
企業によっては、その後エグジットに至るまで、さらにシリーズD以降の資金調達を実施する場合もあります。
VCをめぐる状況が変化し、スタートアップの資金調達の幅が広がっている
国内スタートアップの資金総調達額は、ここ5年増加を続けており、2018年には3,800億円を突破しています(INITIAL 2019年2月21日 基準)。また、1社あたりの資金調達額が増加しているのも近年の特徴。2018年に資金調達を行ったスタートアップの50%以上が、1億円以上の調達を行っています(同)。
スタートアップへの積極的な投資が増えている要因のひとつとして考えられるのが、ベンチャービジネスに特化した投資会社VCをめぐる状況の変化です。
日本でVCの投資環境が整い始めたのは、2000年前後のこと。東証マザーズやナスダック・ジャパン(現ジャスダック)といった新興企業向けの株式市場が開設され、VCがIPOによるエグジットを視野に入れられるようになりました。2000年代後半には、ライブドア事件やリーマンショックなどをきっかけに、VC投資は縮小したものの、近年になって再び盛り上がりを見せています。VCの投資額は2012年から右肩上がりで、2018年には1,615億円に達しました(同)。
加えて、VCの多様化が進んでいる点も見逃せません。従来は、大手銀行や証券会社の子会社など、金融機関系VCが主流でしたが、2010年以降は、独立のVCやCVC(事業会社の投資子会社)、大学系VCなどの存在感も増しています。
金融機関の融資とは違い、返済する必要のないVCからの出資は、スタートアップにとって重要な資金です。さらに、VCから出資を受けることで社会的信用度が高まったり、VCから経営に対する助言を得られたりと、多くのメリットを享受できます。VCによって投資方針や経営で重視するポイントが異なることを考えると、VCの厚みが増したことで、スタートアップの資金調達の幅は大きく広がっているといえそうです。
ベンチャー創業者のエンジェル投資家やクラウドファンディングにも注目
さらに、VC以外の資金調達方法も拡大しています。
例えば、起業経験者がエンジェル投資家になるケースもよく見られるようになりました。グリーの共同創業者・山岸広太郎氏や、コロプラ共同創業者の千葉功太郎氏などが代表的です。
また、クラウドファンディングもスタートアップの資金調達手段としてメジャーになっています。資金を集めながら、インターネット上で支援者とコミュニケーションを取れるため、ファンを獲得したり、ユーザーのニーズを把握してマーケティングに活用したりできるメリットがあるのも重要です。
これらはいずれも、VCから出資を受けることが難しいエンジェル~シードの段階で活用できる資金調達手段。スタートアップ創業者にとってはとても心強いですよね。企業の成長フェーズごとに、さまざまな資金調達の選択肢が用意されていれば、新たなビジネスも生まれやすくなるのではないでしょうか。
おわりに
ここ10年で特に整備されてきたスタートアップの資金調達環境。その資金をもとに事業を成功させ、エグジットへ至る例が増えれば、スタートアップへの投資が活発になったり、新たな起業家が生まれやすくなったりするのではないでしょうか。
「スタートアップ・エコシステム」とも呼ばれる好循環が形成されれば、国内のビジネスもより活性化しそうですよね。
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岩崎 薫里「改善するわが国のスタートアップ事業環境─オープンイノベーション追求が後押し─」JR Iレビュー 2018 Vol.2, No.53