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201907.16

MaaSがもたらす「移動」の大変革。実現までに押さえておきたいビジネスへの影響とは?

ここ1~2年で、MaaS(マース、Mobility as a Service)の話題を頻繁にメディアで目にするようになりました。「移動」に変革をもたらすMaaSの普及が、国内経済の活性化や社会課題の解決につながるとして、政府も「未来投資戦略2018」において、MaaSを推進する方針を明記しています。

MaaSの実現・普及により、ビジネスはどう変わるのでしょうか。国内外の動向を見ながら、予想されるビジネスへの影響を中心に解説します。

2016年、世界初のMaaSがフィンランドに登場。交通サービスを統合してシームレスな移動を実現

MaaSとは、あらゆる移動手段・交通サービスを「移動」というひとつのサービスとしてとらえた概念です。世界で初めてMaaSを実現したといわれる「Whim(ウィム)」を例に、具体的な特徴を見ていきましょう。

Whimは2016年、ベンチャー企業のMaaSグローバル社により、フィンランドのヘルシンキでリリースされました。代表的なプラン「Whim Unlimited」では、499ユーロ/月(約6万円)でタクシーとレンタカー、ヘルシンキ市営の各種鉄道やバス、そしてバイクシェアが乗り放題(距離や時間の上限あり)。Whimが提示した複数の交通経路から、ユーザーが最適なものを選び、Whimのスマートフォンアプリひとつで予約・乗車・決済できます。

このように、移動手段には公共交通機関以外も幅広く含まれること、ただし自家用車は含まれないこと、アプリを通じてルート検索・予約・決済がワンストップでできること、などがMaaSの特徴です。さらに、ほかの例では、Uberのような配車サービスもMaaSのサービスとして利用でき、オンデマンドでドア・ツー・ドアの移動ができるようにもなっています(REACH NOW(旧moovel)など)。

移動がシームレスになれば、生活が一気に便利になることが想像できますよね。

国内のMaaS実現に積極的なトヨタ。自動車産業は事業の転換を図れるか

日本でも2018年ごろから輸送業界を中心に、MaaSにかかわる動きが見られるようになりました。中でも目立つ取り組みのひとつが、トヨタ自動車によるものです。

同社は2018年1月にMaaS専用次世代電気自動車(EV)「e-Palette Concept」を発表。さらに、2019年2月にはソフトバンクと共同出資会社「MONET」を設立し、自動運転車によるMaaS事業の展開を目指すこととしています。

また、西日本鉄道株式会社と共同で、本格的なMaaSサービス「my route」を開発。2018年11月に福岡市で開始された実証実験は、好評により実施期間が延長されています。

MaaSが普及すれば、自家用車の所有率は減少することが予想されます。Whimのケースでも、ヘルシンキのユーザーにおける自家用車利用割合は、Whim利用の前後で40%から20%へと半減しました。MaaSの登場により、自動車産業は事業の転換を迫られているといえるでしょう。

2030年、MaaSの市場規模は6兆円以上に。恩恵を受けるのは輸送業者だけじゃない

MaaSは、単に移動の利便性を向上させるという以上のメリットをもたらすといわれています。たとえば、都市部における交通問題(道路渋滞や駐車場不足など)や環境問題、高齢化・過疎化が進む地方部における交通弱者の問題など、さまざまな社会課題の解決が期待できるでしょう。

ビジネスへの影響については、矢野経済研究所がMaaSの市場規模を予測しています。同資料によると、2016~2030年の期間における年平均成長率はなんと44.1%で推移し、2030年には6兆3,600億円に達するとのこと。

具体的なメリットについては、輸送業者へ直接的にもたらされるものと、他の業界への波及効果が挙げられます。

輸送業者へのメリット
輸送業者の運営が効率化できるとされています。たとえば、過疎地域では鉄道路線の維持が難しくても、これまでは代替の移動手段がなかったことから、なかなか廃止に踏み切れないケースもありました。MaaSが実現すれば、過疎路線を廃止して浮いた資金でオンデマンドバスなどを運用するなど、運営効率を上げながら利用者の利便性をも向上させることができます。

また、データ活用面でのメリットも見逃せません。MaaSにより、各交通サービス提供会社はあらゆる移動手段・交通サービスの枠を超えた利用者のデータを包括的・大規模に収集できるようになります。個別に収集していたデータだけでは分析できなかった傾向が明らかになったり、それをサービスやマーケティング施策の改善に活かしたりできそうですよね。

さらに、運賃収入の増加も期待できます。自家用車の代わりに公共交通機関やタクシーを使う人が増えれば、それだけ収入が増えますし、利用者のデータを分析してサービスやマーケティング施策を改善すれば、そのサービスをより利用されるようにもできるでしょう。

他業界への波及効果
さまざまな業界の中でも、MaaSの波及効果が特に期待されるといわれるのは、観光業界です。

たとえば、公共交通機関でのアクセスが不便だった地域へも観光客を呼び込めるようになれば、地方部の産業活性化につながります。また、MaaSのアプリが多言語対応すれば、インバウンド客の移動の利便性が向上し、訪日観光への満足度をアップさせられるでしょう。

そのほか、小売業や不動産業なども大きな影響を受けそうです。今後、MaaSが普及すれば、現時点では思いもよらなかった新しい事業も誕生しそうですよね。

MaaS実現のためにクリアすべき3つの課題。民間企業に求められる役割も

現在、MaaSの実現に向け、先述したトヨタの例を含めた複数の実証実験が行われていますが、普及のための課題もいくつか指摘されています。

デジタルインフラの整備
MaaSがベースとしているスマートフォンアプリなどのデジタルインフラを、誰にとっても利用しやすいように改善する必要があります。将来広く利用されることを想定するなら、地方部の高齢者でも、快適なインターネット環境のもとで使いやすいスマートフォンを通じて、わかりやすいMaaSアプリを使ってサービスを利用できるようになるのが理想ですよね。

加えて、MaaSのサービスが電子決済を前提にする場合は、スマホ決済や電子マネーサービスの改善も必要になりそうです。

各輸送事業者が持つデータのオープン化
MaaSでは、多岐にわたる膨大なデータを検索して組み合わせることで、利用者のニーズに合った経路を提示します。データの例としては、

・鉄道、バス:経路、時刻表、駅や停留所の位置、運行情報
・タクシー:位置情報、道路交通情報

などです。ただし、これらは現在、各輸送事業者が個別に保有しており、他社がアクセスすることはできません。こうしたデータをオープン化し、幅広く活用できる仕組みを構築する必要があります。

従来の自動車に代わる新しいクルマの実用化
公共交通機関の利用が難しい地方部では、MaaSを通じてタクシーや配車サービスなど、オンデマンドの自動車輸送サービスを多く利用することになると予想されます。すると、心配になるのはドライバー不足です。自動運転技術の実用化など、対策が必要になります。

また、従来の自動車のままオンデマンド輸送が増えれば、渋滞や環境の問題も結局改善しない可能性もありますよね。超小型モビリティやEVなどの技術革新も必要です。

これらの課題の中には、民間企業がビジネスとして積極的に取り組んでいく必要のあるものも含まれているといえるでしょう。幅広い業界にかかわるMaaSは、ある意味、どんな企業にとっても他人事とはいえないのかもしれません。

おわりに

MaaSが実現し、移動の在り方が変われば、生活もビジネスも大きく変化するでしょう。直接的に事業の変革を求められる輸送業界だけでなく、他の業界においても、MaaSによる影響を現実的に検討する必要がありそうです。各社によるMaaSの取り組みに、今後も引き続き注目していきましょう。


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