企業が他社や外部研究機関との連携を通じて、研究開発を進めたり、新規事業創出を目指したりするオープンイノベーション。大企業からベンチャー企業まで、ビジネスシーンで広く関心を集めていますが、その理由はどこにあるのでしょうか。
国内の先進事例の成果もご紹介しながら、オープンイノベーションがもたらすメリットや成功のポイントを解説していきます。
「自前主義」が限界に。オープンイノベーションが注目された背景とは
オープンイノベーションが注目されるようになったのは、2000年代はじめのこと。
1990年代までは、大企業が自社資源だけを頼りにイノベーション創出を目指す「自前主義」が主流でした。当時は既存技術・既存事業の発展型として製品開発を内製化したほうがコスト面で効率的であったためです。
ところが、グローバル化が進展し、インターネットをはじめとしたIT技術が普及するにつれ、製品は高度化・複雑化し、商品のライフサイクルも短期化。一企業だけでは競争力のある新商品を提供し続けることが困難になってきます。たとえば、多機能で(=さまざまな技術が使われていて)、すぐに新しい機種が登場するスマートフォンの開発を思い浮かべるとわかりやすいのではないでしょうか。
そうした状況に対応できる新たなイノベーションの考え方として登場したのが、オープンイノベーションです。2003年、ハーバード大学経営大学院に所属していたチェスブロウ氏によってはじめて定義されました。
当初のオープンイノベーションは、技術の研究開発の文脈で語られることがほとんどでしたが、現在では、技術の商品化やビジネスモデルの開発、新サービスの開発にまで適用範囲が拡大しています。製品の高度化、プロダクトライフサイクルの短期化が2000年代当時以上に進んでいるなかで、オープンイノベーションの重要性はいっそう高まっているといえそうです。
製品開発面にとどまらない、オープンイノベーションがもたらすメリット
オープンイノベーションには、主に3つの側面におけるメリットが期待できます。
事業展開:製品開発・提供スピードが向上、高付加価値技術の開発も可能に
社外技術のライセンスイン(他社が所有する特許権やノウハウを、対価を支払って自社に導入すること)などにより、社内に不足している技術やノウハウを外部から調達して補完できるため、よりスピーディな製品開発・提供が可能になります。ユーザーのニーズの変化に素早く対応できるとともに、時間的・人的コストの削減、生産性向上にもつなげられるのがポイントです。
また、自社内だけでは生み出せないアイデアが創出され、多様化するニーズに応えられるような高付加価値技術・製品を開発できる可能性もあります。
リソース活用:活用できていない技術を他社で商品化・サービス化
技術やノウハウを確立・開発したものの、自社で活用できていない場合は、ライセンスアウト(技術やノウハウを売却したり、使用を許諾して使用料を獲得したりすること)によってそれらを他社に提供し、商品化・サービス化することが可能です。投資回収面で意義があるだけでなく、自社の研究開発部門担当者のモチベーションも上がりそうですよね。
経営・組織:オープンイノベーションが組織強化につながることも
企業間のオープンイノベーションは、業務提携や協業という形で行われるだけでなく、M&Aによる統合・買収に至る場合もあります。スタートアップ企業においては、M&Aによるエグジットを目指し、大企業とのオープンイノベーションに積極的なケースも少なくありません。大企業などスタートアップ以外の企業にとっても、M&Aによる組織強化が期待できます。
国内企業はオープンイノベーションに積極的?現状と課題
日本国内におけるオープンイノベーションの現状について、経済産業省が2015年に行った意識調査によると、研究開発費上位の上場企業約200社のうち、45.1%が「10年前と比較して、オープンイノベーションの取り組みが活発している」と回答しています(「平成27年度オープン・イノベーション等に係る企業の意思決定プロセスと意識に関するアンケート調査」)。国内におけるオープンイノベーションへの注目度は着実に上がっているといえそうです。
一方、学習院大学の教授らによる研究では、欧米企業におけるオープンイノベーション実施率が78%であるのに対し、日本企業では47%にとどまることが明らかになりました(「日米欧企業におけるオープン・イノベーション活動の比較研究」)。世界的に見ると、日本のオープンイノベーションはそれほど活発とはいえない状況です。
オープンイノベーション・ベンチャー創造協議会(JOIC)は、国内におけるオープンイノベーションの阻害要因について、次の3つに分けて説明しています。
組織のオペレーションオープンイノベーションの専門組織が設置されていない、連携先を探せるさまざまな仕組みを活かせていない、連携先と知財の扱いや費用分担についての合意が取れない など
ソフト面の要素経営層や研究開発担当者がオープンイノベーションの必要性を理解していない、そのために予算や人員が確保できない、意思決定のスピードが遅い など
これらの要因により、オープンイノベーションの取り組みが頓挫したり、活動が成果につながらなかったりするとJOICは分析。3つの要因は完全に分けられるのではなく、それぞれが密接に関連しているようにも感じられます。
【事例】担当部門の役割は?連携先の探し方は?オープンイノベーションを成功に導くヒント
先述した阻害要因によって、オープンイノベーションの取り組みが頓挫したり、活動の成果が得られなかったりするということは、裏を返せば、これらの阻害要因を取り除くことで、オープンイノベーションを成功に導けるともいえます。最後に、国内の成功事例から、そのヒントを探ってみましょう。
●大阪ガス株式会社
2009年からオープンイノベーションに取り組んでいる大阪ガス。同年の経営ビジョンでも「オープンイノベーションによる迅速で効率的な技術開発」を掲げ、全社的な取り組みとして推進されています。また、目的として「技術開発のスピードアップ」「製品の性能・レベルアップ」「コストダウンによる競争力アップ」の3点を明確に設定しているのが特徴です。
具体的な取り組みとしては、まず、社内の「オープンイノベーション室」が各組織にヒアリングを行い、自社の技術ニーズ(不足している技術)を分析。大学や公的研究機関、ベンチャー企業などさまざまな社外ネットワークから提携先を探索します。必要に応じて社外のイノベーション・エージェントを活用したり、ビジネスマッチング会を開催して技術ニーズを公開したりといった工夫をしているのが特徴です。また、技術ニーズを社外公開することに対する社内の抵抗感をやわらげられるよう、技術開発担当者に対して、オープンイノベーションのメリットや成功事例の説明を積極的に行っているのもポイントです。
こうした活動により、オープンイノベーション活動開始から7年間で、技術探索を行った354テーマに対し、約半数の175件が具体的な開発段階に進みました。さらにその結果、ある製品では高性能化・コストダウンも実現しています。
2014年以降は、自社が保有する技術も外部に公開。技術の新用途開発や、新市場の創出を目指しているといいます。
「オープンイノベーション室」という専門の組織に活動のノウハウが蓄積され、具体的な成果や、オープンイノベーションの新たな展開につながっているといえそうですよね。
おわりに
はじめてオープンイノベーションが定義されて約20年。国内でも多くの成功事例が出てきている一方で、ビジョンが不明瞭で内実が乏しい活動に終始してしまっているケースも見られます。
まずは「オープンイノベーションを通じて何を実現したいのか」という目的を明確にして、全社的に共有することが、成功への第一歩なのではないでしょうか。
オープンイノベーション白書 第二版-オープンイノベーション ・ ベンチャー創造協議会
オープンイノベーション白書 初版-オープンイノベーション ・ ベンチャー創造協議会
オープン・イノベーションとは?定義やメリット、課題や企業事例までご紹介 _ BizHint(ビズヒント)- 事業の課題にヒントを届けるビジネスメディア
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