採用難の状況が続き、「求人を出しても求める人材が集まらない」という企業が多くなっています。Indeedが2018年に行ったアンケート調査によると「採用したい人材からの応募や紹介が集まらないと感じる」と回答した人事担当者は69%にも上ります。
そうした中で注目を集めている採用手法が「オウンドメディアリクルーティング」です。その期待できる効果と実践方法を、事例を交えながら解説していきます。
※「オウンドメディアリクルーティング」は、Indeed Japan株式会社の登録商標です。
OMRが注目される背景~高度情報社会における求職者の変化とは
オウンドメディアリクルーティング(以下、OMR)は「自社の運営するメディア(採用サイトやSNS・社員)を軸に、高付加価値人材に自社主体で直接メッセージを発信し、共感を喚起することで人材獲得につなげていく能動的リクルーティング」と定義されています。
特に2018年10月以降、世界的な求人検索エンジン「Indeed」の日本法人Indeed Japan株式会社により、積極的に提唱されている概念です。
※高付加価値人材=自社に対するスキルフィットとカルチャーフィットが高い人材のこと。
現在の日本でOMRが必要とされる背景には、次のような求職者の変化があるとされています。
【変化1】仕事を選ぶリテラシーの急激な向上
スマートフォンの普及などにより、生活者の周りに情報があふれる中で、求職者は無意識のうちに、自分にとって無意味な情報(宣伝色の強い情報)を排除し、有益な情報(リアルに感じられる情報)を収集するリテラシーを急激に向上。
このリテラシーは優秀な人材ほど高いといわれており、たとえば「インターネット検索でどのようなキーワードを組み合わせれば、最短で必要な情報にたどり着けるか」ということを熟知しているといいます。
企業は、自社の求人情報を求職者に排除されず、有益な情報として受け取ってもらえるよう、対策することが必要です。
【変化2】働き方に関する価値観の多様化
インターネットを通じてさまざまな情報を得られるようになったことで、求職者の働き方に関する価値観は多様化しています。
求職者が職場に求める条件は、安定性や高収入といったひとつの物差しで測れるものから、「企業のビジョンに共感できるか」「人生の多くの時間を共にしたいと思える仲間はいるか」といった個々人の価値観に強く結びついたものへシフトしました。そのため、テンプレート化した求人情報サイトだけでは、求職者の関心を自社へ向けることが困難になっている状況です。
OMRは、こうした求職者の変化に対応する方法のひとつです。これまで、オウンドメディアは集客がネックになりがちな側面もありましたが、近年ではIndeedをはじめとした求人情報特化型の検索エンジンが求職者の支持を集めているなど、企業がOMRに取り組む環境は整いつつあるといえるでしょう。
OMR実践のポイント~募集職種の「職務」と自社の「価値観」を見える化
とはいえ、自社運営の採用サイトや人事担当者ブログなど、オウンドメディアを活用した採用はすでにやっている、という企業は多いのではないでしょうか。先述した求職者の変化も踏まえてOMRを効果的に行うためには、2つの軸に基づいて情報発信することが大切です。
ジョブディスクリプション(職務記述書)
人材を募集している仕事の役割と、その仕事の遂行に必要な能力を、詳細かつ的確に言語化します。一般的な募集要項にあるような「仕事内容(概要)」「勤務地」「勤務時間」「給与」「福利厚生」といった情報だけでなく、次のような情報も発信することが重要です。
・詳細な仕事内容
・職務の目的や目標
・責任や権限
・社内外でかかわりを持つ人や組織
・職務で必要とされるスキルやナレッジ、資格、経験
シェアードバリューコンテンツ(求職者の共感を喚起するコンテンツ)
自社の価値や魅力について、自社と求職者との間で共有されるコンテンツを発信し、求職者の共感を喚起します。具体的には、企業理念やそれを体現する取り組みの紹介、企業のカルチャーを伝えられるような情報などがシェアードバリューコンテンツにあたります。たとえば、次のようなトピックスが代表的です。
・意思決定の仕組み
・評価制度の特徴
・ダイバーシティ施策
・研修
・オフィス環境
・社内イベント
OMRのメリットとデメリット~85%以上の企業が効果を実感。短期的なコストが課題に
Indeed Japanが2019年に行った別の調査によると、OMRを実施している企業の85%以上が、前年と比較して「応募者数が増えている」「採用者数が増えている」と回答しています。
OMRの主なメリットは2つ。1つ目は、求める人材と出会いやすくなることです。たとえば、求人情報サイトは、高額な広告費用をかけられる大企業の情報が上位に表示される仕組みになっていますよね。これに対してOMRでは、先述した軸をもとに適切な方法で情報を発信していれば、予算の限られた中小・ベンチャー企業でも、インターネット検索を通じて求職者に発見してもらうことが可能です。また、求人情報サイトを閲覧しない転職潜在層とも接点を持つことができ、応募者のすそ野を広げられます。
2つ目は、マッチング精度の向上。これは、求職者がオウンドメディアの情報をもとに、「募集職種は自身に適した仕事か」「この企業の価値観やカルチャーは自分に合っているか」をあらかじめ判断してから採用プロセスに進むためです。これにより、早期離職防止と採用効率化、従業員エンゲージメント向上による組織の生産性アップなどが期待できます。
一方、OMRのデメリットは、短期的にはコストがかかること。立ち上げ時には、メディア構築やコンテンツ制作だけでなく、継続運営を想定した体制も整えなければなりません。また、OMRに限らずオウンドメディアは長期的に運営して初めて効果が出る施策です。長いスパンでコストを回収していくことを想定しておく必要があるでしょう。
成功事例から見るOMRのヒント~メディアとコンテンツを柔軟にとらえる
実際にOMRに成功している企業は、どのような工夫をしているのでしょうか。2社の事例からヒントを探してみましょう。
サイボウズ株式会社
OMRの実践をはじめとした人事施策により、離職率をわずか4%まで抑えているサイボウズ(2018年11月)。人事部が運営する採用サイトだけでなく、独自の編集部によるメディア「サイボウズ式」が大きな役割を果たしているといいます。企業理念「チームワークあふれる社会を創る」を体現した同メディアを見てサイボウズに共感し、応募する人も増えてきたとか。
さらに、社員をメディアとしてとらえたOMR施策「キャリアBAR」を実施。こちらは、キャリア採用の応募者を対象とし、部門ごとに現場の社員が情報を発信するイベントで、実際にイベントに参加して入社した社員からも「入社前後のギャップがない」と好評だといいます。
経営層や人事担当者以外の社員も含め、企業全体で自社の情報を発信していく仕組み・雰囲気づくりが大切そうです。
日本マクドナルド株式会社
全体で約15万人のクルー(アルバイト)が働くマクドナルドでは、クルー採用におけるOMRに注力しています。オウンドメディアへの主な動線として、約5,700万ものダウンロード数を誇る公式アプリを活用しているのが特徴。クルーには15ものポジションがあり、それぞれの仕事内容を適切に定義・提示して募集することで、入店後のミスマッチを防止しています。
また、公式YouTubeチャンネルで実際に活躍しているクルーのライフスタイルを伝える動画をシリーズで公開したり、クルーの成長を描いたアニメを制作したりと、伝えられる情報量の多い動画も積極的に活用しています。
新卒採用、中途採用、アルバイト採用など、それぞれの採用形態で求める人材によって、メディアやコンテンツを柔軟に変えることも必要そうですね。
おわりに
OMRを効果的に実践するためには、自社ブログやSNSを形だけ開設するだけでなく、自社の価値や職務を再定義することが必要になります。逆にいえば、その点を踏まえれば、既存の採用サイトを改善するだけでも、ある程度の効果を上げられるかもしれません。
自社にフィットし、長くパフォーマンスを発揮してくれる人材を今から確保しておけば、働き手不足がますます深刻化すると予想されている近い未来への対策にもなるのではないでしょうか。
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