201709.21

定年年齢は万国共通?日本と海外の定年制の違い

高齢化する日本では、近年、定年年齢の引き上げについてよく議論されていますよね。高齢者雇用安定法では、定年制を定めている事業主に対し、「定年年齢を60歳から引き上げ」「継続雇用制度の導入」「定年制度そのものの廃止」の3つの施策のうち、いずれかひとつを行うことが義務づけられています。そんな定年制ですが、世界の国においてはどのように運用されているのでしょうか。今回は、アメリカ、ドイツ、マレーシアの3か国に焦点を当てて、世界における定年制の実情をご紹介しましょう。

アメリカでは定年制が禁止!


アメリカではThe Age Discrimination in Employment Actという法律により、使用者は、雇い入れや労働条件などに関して、年齢を理由に差別することを禁止しています。つまり、「60歳になったら会社を辞めてもらう内容の契約をする」といったことができないのです。定年制が許容されているのは、公共交通機関の業務や警察官、消防士などだけ。事業者の裁量で3つの選択肢から運用を選べる日本の制度と比べて、よりシビアですよね。ちなみに、カナダやイギリス、オーストラリアなども定年制が禁じられています。

こうした事情のため、アメリカでは従業員個人の意思でリタイアの年齢を決定します。アメリカの調査機関Gallupが2014年に発表した調査結果によると、1990年代初頭の平均リタイア年齢は57歳でしたが、2002年から2012年にかけては60歳、2014年では62歳と、年々上昇しています。さらに、現時点で就労している人たちがリタイアしたいと考えている年齢の平均は66歳とのこと。平均寿命が延びるなか、アメリカでも老後の資金を不安に思う人が多いということなのでしょうか。

なお、アメリカにおける退職年金の満額受給年齢は65歳ですが、現在、年金制度の改正に伴って、67歳まで段階的に引き上げられています。日本と同じようなことが起こっていますよね。

アメリカにおける老年(65歳以上)人口比率は、1980年の11.4%から、2050年には22.2%になると予想されています。将来、人口の30%以上が65歳以上になると言われている日本ほどではありませんが、高齢化は深刻です。高齢者の生活費を確保し、少子化に伴う労働力不足を補うための対策が急務だと言えるでしょう。

高齢化が深刻なドイツでは定年が69歳に!?


ドイツをはじめとしたヨーロッパ諸国では、定年年齢と年金受給年齢がリンクしているのが一般的です。たとえば、民間企業であれば、従業員が年金受給年齢に達した際、解雇の通知なく雇用関係を解消する旨の労使合意を交わすことによって、定年が定められています。ドイツにおける年金受給年齢は65歳ですので、現時点では65歳が実質上の定年となっています。

ただし、ドイツでも日本やアメリカと同様、年金受給開始年齢の引き上げが議論されており、現在、67歳まで段階的に引き上げられているところです。これに呼応して、各企業の定年年齢も引き上げられることが予想されます。さらに、2016年には、ドイツの中央銀行であるドイツ連邦銀行が、公的年金制度維持のため、定年年齢を69歳まで引き上げるよう提言して、物議を醸しました。

ドイツはヨーロッパ諸国のなかでも、老人人口比率が特に高い国です。1980年の15.7%から、2050年には32.3%になると予想されています。もともと、福祉関連の財源となる税金が高めの国ですが、今後、若い世代の負担増は避けられないかもしれません。

経済発展目覚ましいマレーシア、労働力確保のために定年延長


一方、日本や韓国を除いたアジア諸国では事情が少し異なるようです。たとえば、マレーシアにおける老人年齢人口比率は、2015年時点でわずか5.9%となっており、高齢化社会とは言えません。にもかかわらず、2013年、政府は定年年齢を、当初の55歳から60歳に引き上げることを義務化しました。

この背景には、経済発展による労働力不足があります。マレーシアのような発展中のアジア諸国では、若い世代だけでは、経済成長に必要な労働力を確保できないのが現状なのです。さらに、平均寿命が75歳まで延びたことも影響しています。マレーシアでは、年金・退職金を現役時代に積み立てておく仕組みであるため、55歳が定年では、20年近くのあいだに年金・退職金を使い果たしてしまう危険性もありました。

このような状況は、マレーシアだけでなく、中国やタイでも起こっています。定年年齢の引き上げについては、「人件費の増加で企業の成長が阻害される」といった反対意見もありましたが、現在では多くの企業が、「ベテランの知識・技術を積極的に活かしていこう」と言う考えから、定年延長を受け入れています。

「労働力不足に伴う労働力の確保」「高齢者の生活費確保」という目的だけ見れば、日本やアメリカとも同じですが、その背景がまったく異なっているのは興味深いですよね。

おわりに

日本やアメリカ、ドイツといった少子高齢化の先進国と、マレーシアのような成長中の国では、定年制度事情が大きく異なることがわかりましたよね。その一方で、平均寿命の延びにより、定年年齢が引き上げられている点が共通しているのはおもしろいところです。とはいえ、定年年齢を単に引き上げればいいというわけではないでしょう。働く高齢者が増えるなか、高齢者も働きやすい職場環境が世界的に整っていけばいいですよね。

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