ビジネス環境の変化や働き方改革に伴い、時短勤務、リモートワークなど従来の枠にとらわれない勤務形態が増えています。そんな中、注目されているツールが「チャットワーク」です。
チャットワークは、クラウド上でチャットやタスク管理、ファイル共有ができるという優れもの。いつでもどこでも隙間時間にやり取りができ、2018年8月末時点で18万9千社もの企業に導入されています。
今回、その躍進の秘密を探るべく、ChatWork株式会社の常務取締役CMO・山口勝幸さんにお話を伺いました。
重要だけど面倒くさい、仕事上のコミュニケーションを効率化
―まず、「チャットワーク」とはどういうツールなのでしょうか?
一言で言うと「クラウド上の会議室」です。仕事をしていく中で、大事なんだけれども時間が食われてしまう部分といえば、やっぱりコミュニケーションや情報共有ですよね。
たとえば、会議や打ち合わせをしようと思うと「○時○分に集まりましょう」と時間を合わせて集まらないといけません。でも、今はどの企業も人手が足りず、働く時間もだいぶ制限されている中で、時間を合わせるって大変ですよね。
そういった「同期型」のコミュニケーションを効率化し、「非同期型」にしていこうというのがチャットワークです。
たしかに、会議や打ち合わせの面倒くさいところは、まず全員の都合を合わせなければいけないこと。
ですがチャットワークなら、わざわざアポを取って集まらなくても、自分の好きな時間に短いメッセージを書いて送ったり、読んだりできるのだと、山口常務は語ります。
また、送られたメッセージはそのままログとして残るため、議事録として活用できるのもメリットのひとつ。
チャットワークはそうしたチャット機能に加え、タスク管理機能やファイル共有機能、ビデオ会議機能があります。
情報の共有にはチャットを、テキストだけだと伝達しにくい意識の共有にはビデオ会議を。私たちはそういう「コミュニケーションの使い分け」を推奨していますね。
集まらなくても仕事を進めていければ、今の「人手がない」「時間がない」という世の中でもストレスフリーに働くことができます。そんな新しい働き方を広めているところです。
「フリーミアム」と「セールスモデル」が同居する、特殊すぎる事業形態
―18万9千社もの企業に導入されているとは驚きました。
このサービスを始めて7年半が経ちますが、現在は導入してくださる法人様の数が毎月4千社ずつ増えています。
4千社・・・・・・。まさに破竹の快進撃ですね。どうしてそんなに人気が高いのでしょうか?
ユーザーがユーザーを呼ぶネットワーク効果が、顕著に出ていると思います。
やっぱりこの働き方を一度知ってしまうと、メールや電話、会議の世界に戻りたくないんですよね。だからずっとチャットワークで仕事をしたいけれど、取引先はまだ電話を使っている。
そこで取引先にもチャットワークを勧めたいと思ったときに、私たちのサービスの「フリーミアム」という形態が活きてくるんです。
チャットワークには無料プランがあるので、外部の人にも勧めやすいんですよ。それでどんどんつながっていく。
チャットワーク株式会社の一番の特徴は、この「フリーミアム」と「セールスモデル」が同居していることにあるんですね。
「気持ち悪い」とよく言われます。普通、セールスモデルを持っている企業は、フリーミアムという形態を持たないんですよ。「無料なのは一ヶ月のお試し期間だけで、それが過ぎたら購入か解約かの二択を迫られる」というサービスがほとんどだと思います。
ですが、チャットワークの場合「取引先には無料プランを勧めているから、自社は有料プランを買おう」というシナジーが働いているんです。
私たちは新しい働き方を啓蒙していくために、「まずは自社がお手本にならないといけない」と、創業以来18年間、メール、電話、紙を一切禁止にして、チャットだけで仕事し続けています。
その上で、「労力は人の半分だけど、成果は倍以上あがっています」とお客様に発信しているんですよ。それで100社のうち、5社でも10社でも手に取っていただければ、そこから広がっていきますね。
士業や介護事業、建設事業など、非IT分野での導入が増えている
―どういう業種で導入されることが多いのでしょうか?
意外に思われるかもしれませんが、今はIT企業より非IT企業の方が多いですね。代表的なのは弁護士、税理士、社労士などの士業です。あとは介護、建築、建設業で導入いただくケースも増えています。
たとえば建設業者の方の場合、以前はいちいち電話で連絡しなくてはならなかった工事日程や図面を、リアルタイムで全員に共有するなどして使っていただいています。
非IT分野での導入が増加している理由については「非IT企業へリーチするよう、戦略的にオフライン部隊によるセールスマーケティングを進めている」「プロダクトがシンプルなので、相性がいい」の2つが挙げられました。
ITリテラシーがさほど高くない人でも使えるよう、シンプルで、より使いやすいツールにしていくということには、かなり強いこだわりを持って取り組んできました。
そもそも弊社の出発点として、「日本を元気に」というのがあったんですよ。じゃあ「日本」が一体誰を指すのかと考えた時、日本の会社の99%は中小企業なわけです。つまり中小企業が元気になれば、日本が元気になる。そのためにはIT業界へアプローチするだけではダメなんです。
非IT企業の方は皆さん現場に出てらっしゃるので、PCなんか使いません。モバイル端末だけです。ですから、片手のみの操作で欲しい機能にたどりつけるよう、シンプルさに磨きをかけないといけない。
非IT企業へのリーチ力とユーザビリティの高さこそ、競合との差別化の鍵
―ビジネスチャットでいうと、他のツールもよく使われているかと思います。そうした競合サービスと差別化している部分はありますか?
まずは先ほど申し上げた非IT企業へのリーチ力ですね。これは弊社独自のマーケティングだと思います。そして、これはお客様からよく言っていただくんですが、ユーザビリティの高さです。シンプルでわかりやすい、ほかのツールにはないタスク管理機能がついている、リアルタイムでレスポンスが返ってくる、既読の表示がないので自分の返信したいときに返信できる・・・・・・。
2つの大きな強みを提げ、チャットワークはアジアにまで波及していこうとしているそう。
現在はベトナムと台湾に拠点を出して、足がかりを作っている最中です。とはいえ、まだサブスクリプションにお金を払う文化がなかったり、そもそも「効率化」という発想に至っていなかったり、働き方の前提がまったく違うんですよね。
そういう市場に向き合い、攻略できるような勝ち筋を3〜5年の間に見つけたいと考えています。
最後に、「『働き方を変えていきたい』という気持ちは、創業当初から全く変わりません。人間なんだから、人間らしい仕事、人間にしかできないクリエイティブな仕事をしていけるような世界を作っていきたい」と笑顔で締めくくった山口常務。
チャットワークは、仕事の生産性以上にかけがえのない価値を私たちにもたらしてくれるように感じられました。
山口常務、お忙しい中ありがとうございました。