現在の小中学生に対して、芸能人以上の知名力を持つとも言われる“YouTuber(ユーチューバー)”。ユーチューバーの活動をサポートする“MCN(マルチ・チャンネル・ネットワーク)”として日本を牽引するUUUM株式会社は、国内のクリエイターが多数所属する今注目の企業です。
創業当時から日本を代表するユーチューバー・HIKAKINさんといっしょに仕事をしてきた鎌田和樹社長は、クリエーターマネジメント・動画コンテンツ制作・インフルエンサーマーケティングなどでUUUMを多角的に成長させていった手腕の持ち主。2017年8月にはマザーズ上場も果たしました。
今回は、そんなUUUMの鎌田社長に、動画マーケティングの可能性や、クリエイターとの関係性における考え方などを伺いました。
近年のインフルエンサーマーケティングは「ブログから動画へ」
―動画コンテンツは年々増加していますが、現在の動画マーケティング事情について教えてください。
2013年のUUUM立ち上げ当初はプロモーション動画の営業をしても門前払いされることがほとんどでしたが、だんだん動画の可能性に気付いていただけるようになりました。
メディアとしてはテレビの方が絶対的に強いというイメージがあるんですが、世間的には無名のクリエイターであっても、100万回再生されることもあります。
経営者も数字が好きなので、「これってテレビCMの放送回数の1万倍の視聴回数なんですよ」と伝えると、マーケティングの手段として魅力を感じてもらえます。
特に人気のクリエイターによる商品紹介は、高い効果が期待できるインフルエンサーマーケティングですね。
美容クリエイターが紹介した化粧品がたちまち欠品になることもあります。
昔から有名人がブログで商品紹介することはよくありましたが、動画を使っての商品紹介も増えています。動画ではより多くの情報量を視聴者に届けられます。
インフルエンサーマーケティングでも、ブログから動画へとトレンドが移ってきたんですね。
具体的に、どんな訴求をしたいときにプロモーション動画を活用すると良いのでしょうか。
認知目的だと思います。特にプロモーション動画は「若い人に、まずは商品を知ってもらいたい」という目的で利用するのに適しています。
たとえば数百万円の車を「広告を見たから」と言ってすぐ買う人はほとんどいませんが、知っていればいつか車を買うときに「そういえばこんな車があったな」と思い出して、候補に入りやすくなるでしょう。
短期的な利益ではなく、長期的な利益をつくるために活用できるプロモーション動画。
一般的な広告よりも宣伝っぽさがないため、情報リテラシーが上がっている若いユーザーが受け入れやすいのかもしれませんね。
「動画を面倒だと思わないでほしい」成功のカギは継続力
―それでは、これから企業がプロモーション動画とつくるときは、何を意識したらいいのでしょうか。
継続力ですね。手間はかかりますが、動画を面倒だと思わないでほしい。
トレンドもおさえつつ、目が肥えてきた視聴者に飽きられないコンテンツを作り、クオリティを上げ続けることが重要です。
いくらYouTubeの視聴者数が増えていても、いきなり100万回再生されるわけじゃないので、最初は反響が少なくても継続することですね。
たしかに、動画コンテンツの提供を始めても、継続できない企業は珍しくありません。再生回数を高め続けるためにはPDCAをしっかり回すことが重要だそう。
また、動画制作を継続するために欠かせないのがゴール設定。鎌田社長は、「なんのために動画を作るのか」という目標を考えてからスタートするべきだと強調します。
近年、オウンドメディアを中心としてたくさんの動画がネット上で配信されるようになりましたが「結局、コストだけかかって結果につながらなかった」と言って辞めてしまう企業が多いです。
それはそもそも「誰に向けて何を伝えたいのか」があいまいなせいで、それだと失敗してしまうんですよね。
「これからは動画だ」ということで、安易に企業サイトに動画を置いても誰も見に来ないので、なんのためにやるのかというのはハッキリさせないといけません。
鎌田社長は「テレビなどのマスメディアと一般の視聴者の中間に入れることも、動画コンテンツの強み」と述べます。
動画はたくさん作れば作るほどコンテンツとして蓄積されていくので、関連動画としてリンクが表示されるため、回遊率も上がります。
そうすると、知らず知らずのうちに配信する側と視聴者の距離感が近くなってくる。結果として共感が生まれやすく、それが人気につながっていくんだと思います。
「テレビで放送されていた〇〇が正しいか検証してみた」といった企画の動画など、テレビと視聴者の間をとるようなコンテンツには、マスメディアにはない独自のおもしろさがあります。
なるほど……。たしかに、特定のユーチューバーの動画を関連リンクなどで「くりかえし観る」ことで、ぐっと心理的に親しみやすさを感じることがありますが、こうした「身近さ・親しみやすさ」がユーチューバーの人気を高めている理由のひとつなんですね。
その人気を受けて、ユーチューバーに仕事を依頼する企業が大手・中小を問わず増え続けているんだとか。
商談では広告宣伝部長よりも若手社員のほうが動画に詳しかったりするんだそうですが、お話を聞く限り、たしかに納得です。
クリエイターと対等な関係性を築き、相乗効果を発揮する
―UUUMのクリエイターとの関わり方について、お伺いしてもよろしいでしょうか?
UUUMは、プラットフォーム上の広告収益の一部を受領するアドセンスと、企業プロモーション動画の広告費で収益を得ています。
私自身は動画を作る人間ではないので、所属しているクリエイターが動画を作れなければ売り上げは落ちます。
なのでクリエイターにいい動画を作ってもらうことがすべて。クリエイターを尊敬してますし、対等な関係を築いています。
鎌田さんはもともとYouTubeが大好きなんだそう。だからこそ、クリエイターとの契約時も、対等なやりとりを心掛けているんだとか。
契約時は、「UUUMに入ってくれ」「こういう動画を作ってくれ」と交渉するのではなく「僕はこういう人間です。よければ一緒に仕事をしませんか」と説明します。
そこで納得してもらって、初めて契約に至ります。
契約すれば社員はクリエイターがいい動画を作れるように全力でサポートするので、そういう意味で社員もクリエイターも同じ仲間。その集合体が今のUUUMなんです。
UUUMではクリエイターのマネージャーを「バディ」と呼んでいて、パートナー意識を大切にしているそう。
ユーチューバーのマネジメントをする会社は複数ありますが、アットホームな雰囲気が伝わってきます。
会社員時代に大変な仕事もたくさん経験したので「次は楽しく仕事したい」という思いがあって。
なので、クリエイターにもUUUMをうまく利用してもらって、お互いに楽しくいいものを作っていきたいと考えています。どうせ働くなら笑って働きたいじゃないですか。
依存しあうのではなく、お互いにバランスを取りながら協働したいですね。
社長らしくない社長でいたい
鎌田社長は、会社が成長した今もクリエイターと直接話す機会を設けているそう。
ビシッとスーツを着て、高層ビルの社長室にドンと座っているのは社長らしい姿ですが、僕らしくはないなと。
よく悩みを相談されるんですが、人が相談するときって、背中を押してほしいときなんですよね。すでに自分の中で答えは出ているんだけど、一歩踏み出せないから相談しに来る。
正直、僕は経営者なので解決策だけ端的に伝えたくなるんですが、なるべくじっくり話を聞くようにしています。そうやって話をする時間の長さも、関係性を作るうえで重要です。
このような会社のトップと直接話せる関係性が構築できていることが、多くのクリエイターが集まる理由の一つかもしれませんね。
動画マーケティングの最新事情から、クリエイターとの関係における考え方まで、幅広くお聞きできたインタビューとなりました。鎌田さん、お忙しいところありがとうございました。