みなさんは、ナイトタイムエコノミーってご存知でしょうか?新たなインバウンド戦略のひとつとして、注目が集まっています。
国際カジノ研究所所長・木曽崇氏の定義によると、ナイトタイムエコノミーとは「居酒屋やナイトクラブなど、一般的に夜遊びをイメージするものだけでなく、夜間医療や24時間体制で私たちの生活を支えるインフラなど、日没から翌朝までに行われる経済活動の総称」のこと。
本記事では、ナイトタイムエコノミーが注目される理由や日本の現状、国内外の先進事例などについて見ていきましょう。
ナイトタイムエコノミーがインバウンド消費増加のカギに
ナイトタイムエコノミーは、インバウンド消費を増加させる戦略として有効だとされています。
日本政府観光局が作成した資料「世界各国、地域への外国人訪問者数ランキング」によると、2016年における日本の外国人訪問者数は2,400万人。日本は世界16位という上位国です。一方、観光客ひとり当たりの消費額については課題も残ります。UNWTOの統計からNHKが算出した資料によると、日本における旅行者ひとり当たりの消費額は約1,200ドル。1位レバノンの4,517ドルと比べて約4分の1の額です。
この消費額を増やすために、夜の時間帯を活用しようというのが、ナイトタイムエコノミーの考え方となっています。昼と比べて経済活動が活発でない夜にも行うことで、国内消費はもちろん、インバウンド消費も増やすことが目的です。新経済連盟によると、日本がナイトタイムエコノミーを活性化させることにより、新たに約80兆円もの収入を得られるともいわれています。日本の経済が大きく動きそうですよね。
NHKの取材によると、日本でのナイトライフを楽しみたいという観光客は多いようです。日本は終電が早い、娯楽施設や芸術・文化施設が夜遅くまで開いていないという理由で、不満の声が多く聞かれました。
確かに、日本で夜遅くまで楽しめるのは都心の一部の繁華街のみで、著名な観光地ほど、早い時間に閉まってしまう印象があります。また、夜遅くまでにぎわう繁華街で楽しめるのも、日本では飲食がメイン。これに対してアメリカやイギリスでは、美術館や博物館が夜遅くまで開館していたり、ミュージカルやショーなどが19時~23時頃という遅い時間に公演していたりするといいます。昼にはできないアクティビティを楽しみたいと思う観光客には、日本の夜はもの足りないかもしれません。
こうした現状を考えると、ナイトタイムエコノミーによってインバウンド消費が拡大する可能性は、大いにあるといえるでしょう。
日本のナイトタイムを盛り上げろ!先進事例を紹介
このようなナイトタイムエコノミーへの注目から、日本でもナイトタイムを楽しめるさまざまなサービスが登場してきています。以下で、その事例をご紹介しましょう。
・ROBOT RESTAURANT
新宿区歌舞伎町にあるショーレストランで、ロボットやダンサーによるエンターテインメントを楽しめます。入場料は飲食代別で1人8,000円。ショーのスタート時間はもっとも遅いもので21時45分です。年間12万人もの人が訪れ、そのうちの8割以上が外国人といわれています。ホームページも英語表記のものが完備されており、外国人観光客が情報収集しやすそうです。海外のメディアからも多数取材を受けています。
・WA!!
品川プリンスホテル・ステラボールで行われている、体験型エンターテインメントです。世界30カ国・60都市以上で、500万人以上の観客を集めたアルゼンチンのカンパニー「フエルサ ブルータ」が、日本の伝統文化にインスパイアされて考案した演目となっています。夜公演のなかには、19時や20時から始まるものが多いのがポイント。タイトルのとおり「和」を感じられることから、インバウンド需要も高そうです。また、公演中は、写真や動画の撮影もOKなので、観光の思い出をシェアできるところも魅力ですよね。
さらに、2016年の風営法改正により、日本各地でクラブカルチャーも盛り上がってきています。改正前は、音楽に合わせてダンスをするクラブの営業時間は、0時までと規制されていましたが、改正後は、酒類の提供時間や照度など一定の条件を満たせば「特定遊興飲食店」として、深夜0時以降の営業が可能に。今後、外国人観光客におけるナイトライフの選択肢が増えることに期待できそうです。
海外の事例から学ぶナイトタイムの安心・安全
一方、ナイトタイムエコノミーの推進には課題もあります。そのひとつが、治安や衛生など安心・安全対策です。夜遅い時間でも、観光客が安心して快適にナイトライフを楽しめる街づくりが求められています。
治安の面で参考になるのが、ナイトタイムエコノミー先進国であるイギリスの事例です。イギリスでは、2012年から、「夜も安心して遊べる街」を国が認定する「パープルフラッグ制度」を実施。犯罪対策やアルコール対策、交通網といったさまざまな基準が設けられ、一定の水準に達した地域が認証を得られる制度です。同国ではリバプール地域などが、このパープルフラッグ制度をきっかけに治安を改善し、街の再生を果たしています。
さらに、ニューヨークやアムステルダムなどでは、「ナイトメイヤー(夜の市長)」と呼ばれる役職が置かれています。行政や住民、ナイトライフの担い手などの間に立って、政策立案や取りまとめを行うのが役割です。アルコール対策や騒音対策、嘔吐物やごみなどに対する衛生面の対策など、昼間にはないトラブルに対処しながら、ナイトタイムエコノミーを活性化させることが目的となっています。
日本でも、2016年、東京都渋谷区において、ヒップホップ歌手のZeebra氏が夜の観光大使「ナイトアンバサダー」に就任。同年に行われた「第1回世界ナイトメイヤーサミット」にも参加し、情報発信を行っています。近い将来、日本においてもさまざまな街で、ナイトメイヤーが誕生するかもしれません。
おわりに
成熟しつつある日本の経済を、さらに発展させる可能性のあるものとして、注目されているナイトタイムエコノミー。新しいインバウンド戦略として、ぜひ取り入れておきたい視点ですよね。
ナイトタイムが充実すれば、インバウンドだけでなく、日本に住む私たちも恩恵を受けられるでしょう。今後の展開が楽しみです。
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