あなたの会社の組織体系って、どんな風になっていますか?
経営トップ以下幹部から組織の長、リーダー、従業員・・・・・・。
こうした役職を配置したタテの線と横の線で説明されるのが一般的かもしれません。
しかし、組織図なし、上司と部下という関係なしなど“ホラクラシー”と呼ばれる経営手法で事業運営をしている会社があります。しかも、業界では高収益企業として知られていると。
その会社は、不動産業界向けにITソリューションを提供するダイヤモンドメディア株式会社。
代表取締役共同創業者である武井浩三さんに、経営スタイル、社員皆さんのマインド、働き方、高アウトプットで高収益をあげるポイントなどについてお話をうかがいました。
経営情報は、社員全員の給与金額も含めて全てオープン。フラットに、やれることの役割を果たしあう組織
―ダイヤモンドメディアさんが取り組む“ホラクラシー”って、一体どんなスタイルなんでしょうか。
―武井
当社においては「従来のヒエラルキーを包括する組織の概念」をさしています。
組織を細かく分けて、それぞれ最適なところで意思決定と実行を行う、自走的な組織運営のあり方です。
誰かが無理をしたり、どこかに過剰な負荷をかけたりするのではなく、メンバー一人ひとりが自然な形で組織にコミットし、個人のバリューを最大限発揮することによって組織を発展させていくことを目的としています。
―どうやったらそういった経営ができるのでしょうか。
―武井
当社には、3つの大きな前提があります。
1つ目は「情報の透明性」
会社の財務諸表、現金残高、全員の給与額、使った経費の内訳など全てを見える化しており、会社のメンバーはいつでも誰でも情報にアクセスすることができます。
誰が何に経費を使ったのか、いくらで売れて利益はどのくらいなのか、そして全員がいくら給与を得ているのか・・・・・・
会社組織にある情報はお金回り以外のことも含めてとにかくオープン。透明性を持たせています。
2つ目は「権力の消失」
権力、権限というものが当社には一切ありません。
先に仕事・役職を決めてから人材を当てはめていくのではなく、個人のバリューを最大限に発揮するというスタイルで役割を決めています。
できないことがあっても無理してやりませんし、やらせません。
こうしたやり方をすると、最終的にはうまくバランスが取れてパズルのパーツがはまるように組織が健全に動き始めます。さまざまな無駄が無く、とても筋肉質な組織です。
3つ目は「給与相場システムの確立」
「仕事」や「役職」に金額をつけるのではなく、その人の実力を見て株式市場のように「相場性」で給与を調整しています。
もし仕事と能力のミスマッチが起きてもすぐに顕在化させ、解決する仕組みを機能させています。
評価をする上司がいなく、自己評価もない。相場を考慮して皆で決める給与
―フラットな組織で上司もいない。ではどのように給与を決めているのでしょうか。
―武井
先程申し上げたように株式市場のように「相場」によって給与額を調整します。
具体的には、マーケットバリュー、つまりその人の労働市場での相場と、社内でのバリューの両面をみて決めています。
給与水準の図り方は、これまでいろいろな失敗もしてきて変えてきたそうです。
そして、今の給与決定原則に至っているとのこと。
―武井
給与を考える上で基準となるポイントは、「他のメンバーを楽にする取り組みを行った」「長期的に価値のある取り組みを行った」「個人のプレイヤースキルよりも、チームの相乗効果を重視した行動を取った」といった点です。
なので、「前職の給与」や、「短期的な成果」をもとにした金額調整は基本的に行われません。
また、「未来に対する期待値」は給与には一切反映しません。
「がんばっているから」といった点を給与に加味すると、全体の給与がどんどん上がる「給与バブル」が発生し得ます。
会社の売上と人件費の割合がおかしくなって、どこかで全員の給与調整が必要になってしまう。
これは本当に辛いから、こうした原則を作っています。
全員参加で会社にあるお金の使い方すべてを皆で決める「お金の使い方会議」。給与も会社のお金だから、その使い道の一つとして皆で決める
―社員全員で話し合って、全員の給与を決めるのですか。
―武井
はい。半年に一度、全員で会社の「お金の使い方会議」を行い、給与についてはそこで決まります。
この会議では、何にコストをかけるか、何に投資をしていくか、コスト削減方法などを議論します。
個人の給与は、突き詰めていけば「会社のお金の使い方の1つ」にすぎません。
ですから個人の給与にフォーカスしすぎることなく、いま人を採用すべきか、給与を増やすべきか、福利厚生をどうするかなど、いろいろな選択肢を出して決めていきます。
自分達の給与を決めようとしたら、お金はどこから入ってきて、何が出ていっているのかを知らないと決められませんね。
そうなると、情報が不透明だと判断できない。
そのためにも全ての情報を開示し、どうしていくのがベストかを決めていくということなんですね。
社会に価値提供すること一点だけにフォーカスするためにとった選択肢は、会社の理念、目標を作らないことだった
―皆さんの意思統一は、どうやって図っているのでしょうか。
―武井
日々の仕事の中で意思統一を図っていきます。
当社には、スローガン、理念、経営計画、今期目標など、明文化されたものがありません。
お客様やお取引先とビジネスを進めていく中で、「こちらにいったほうがいい」という流れがある。
それを皆で捉えて、進む方向や方針を皆で決めていきます。
会社とは、ビジネスを通じて経済活動をし、社会に貢献するための組織です。
社員は仕事を通じて価値貢献をし、対価を得るもの。
そう考えると、世の中に対して提供している価値以上に稼いでしまうというのはおかしな話です。
会社はこういう方向に行こう、とか、皆さんが目指す目標とか。
そういったことも皆さんで決めていく方式なんでしょうか。
―武井
例えば、単に自分達が稼ぎたいだけの計画で、お客様から求められていないのに無理に売上を作ろうとしたらどうなるか。
顧客満足度が下がり、解約が増え、LTV(ライフタイムバリュー)でみれば機会損失する、社内が疲弊する・・・・・・
だから、一人ひとりがいい仕事をし、世の中に対し本当に価値があることを提供することに100%フォーカスすることを目指しています。
そのためには会社の仕組みの中に個人の成長を阻害する要因があってはいけない。
その点は徹底しています。
そして、突き詰めていった結果、「理念」も明文化しない、という判断をしました。言葉は意図せず人をコントロールし、時に現場とお客様をも隔ててしまう可能性があると考えたからです。
事業の失敗から考え至った“存在価値がある”企業像
―どうして、こうした経営スタイルに行き着いたのでしょうか。
―武井
私は、一度起業し、失敗しました。
何か世の中に爪あとを残したい、という野心を持って取り組んだ事業はうまくいかず、周囲を巻き込んだ上に人生を振り回してしまいました。
当時、働くということ、仕事、会社ってなんだろうと考えました。
そこで出した結論は、人にとって、地域にとって、国にとって、世界にとって意味のある仕事をすることが企業の存在価値だということ。
そうした価値ある組織を、仕組みで作り出したい。もし代表者がぶれたとしても危機に陥ることがない、健全で永続性のある企業にしたい。
そう考え、企業経営に取り組んできました。
独立した一人ひとりが考え、行動し、巻き込み、その役割を果たすことで得た強みを活かした事業分野において、独自性が高い高収益企業となる。
考え方によっては、働くメンバーにとって大変厳しい環境かもしれませんが、武井さんがリードして作り上げてきた“社員”に対して提供する価値は、「圧倒的に成長可能な環境」なんだと思いました。
今日は、貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。